20歳になると加入することになる国民年金制度には、収入が無い学生時の保険料支払いが「猶予」される学生納付特例制度があります。
毎年6割以上もの多くの学生が利用しているそうで、筆者も大学院を含む4年間を利用していました。
で、この学生納付特例制度は「免除」ではなく「猶予」であるというのがポイント。
要は、金額については「後で支払って下さいね」という未納状態。
未払いで猶予されていた分は10年以内ならさかのぼって納める「追納」が可能で、一般的には「将来受け取る年金額を増額するためにも、期間内に追納しておきましょう。」と解説されます。
ただ、追納すべきものなのか?というのはご自身の考えや状況に応じて判断されると良いでしょう。
というのも、国民年金の保険料は、令和4年度分だと月16,590円になります。1年分なら19万9,080円(16,590×12)。ざっくり1年で20万円として2年分の支払い総額は40万円(4年分なら80万円)。
これに奨学金の返済などと合わせると社会人になってからの10年間で追加で支払うというのは正直きついと感じる方も多いのではないでしょうか?
受給額に関して損得を考えると、基本的には追納しておいた方が無難ということになりますが、義務ではありませんし、なにがなんでもということでもありません。
この記事では、年金の仕組みを確認しながら、学生納付特例で猶予された未払い分を「追納した場合」と「しなかった場合」にどうなるかをケースバイケースで検証し解説します。
また、記事の後半では、「追納」だけに限らない未払い分の対応方法について紹介します。
納付が猶予された保険料は、後から納める(追納する)方が良い理由
まず、「追納した場合」と「追納しなかった場合」にどのような差が生じるのかを把握しておきましょう。
追納せず将来の年金が減る額は3.9万円/年
日本の年金の仕組みは、20歳から60歳までの40年間を支払うと、65歳から毎年生涯にわたって満額(現在だとおよそ78万円)の年金を受給できるというものです。
企業にお勤めの場合は「厚生年金」も加わりますが、今回の話は全国民が該当する基礎年金部分。
この40年間に未納期間があると、その分だけ年金額が減額となってしまいます。
例えば、2年間未納期間があった場合なら、満額の38/40…74.1万円となり、およそ3.9万円/年が減額されます。
4年間なら36/40…70.2万円(7.8万円/年減額)といった具合になります。
年金は10年で元が取れる
では「減額されないためには、追加で支払う必要がある」となると、、
結局、得になるんだっけ??
というのが新たな疑問になりますよね。
2年分の追加支払い40万円によって増額される(減額されずに済む)のは3.9万円/年。
65歳から75歳までの10年間受給すると39万円(3.9×10)回収することができます。
つまり、支払った分の元をとるには「10年」で済みます。
これは4年分の追納でも同じであるばかりか、40年分の総支払額に対しても同様で、老齢年金は「10年受給できれば元が取れる」ということになります。
およそ40万円も損する!?
65歳から10年間受給した場合、つまり75歳まで生きているなら元がとれることがわかりました。
ところで、年金は生涯に渡って受けとることができる有難い仕組みです。
日本人の現在の平均寿命は85歳くらいなので、75歳で回収した後の10年分の受給額(39万円)は完全に得した分ということになります。
言い換えると、
40万円追納しておかないと40万円損をする
ということです。
39万円だったのに40万円と少し盛っていますが、数字を厳密にしすぎるとわかりにくくなってしまい本質的ではないのと、追納時は社会保険料控除されて税金が少し安くなったりもするので、まぁ、ざっくりそんな感じです。
以上が、減額されないように追納した方が良いとされている基本的な考え方です。
試算した数字はあくまでも、現状の制度のままだったらという仮定があります。
追納しない方が良いケース
基本的には猶予期間の未払い分も追納した方が良さそうだということがわかりました。
では、追納しない方が良いケースというのはどんな時でしょうか。
それは「今のお金」が大事なときです。
そもそも支払いが苦しいとき
例えば、社会人となったら支払う必要が出てくるお金として「学生時代の奨学金の返済」がある方も多いと思います。(学生の半数は奨学金を受けているそうです。)
奨学金を大学4年間や大学院を含めた6年間利用した場合の返済額は数百万円にもなりますし、第2種奨学金であれば利率こそ0.数%と低いものの、利息もかかってきます。
かなり大きな金額になるので負担も大きいですよね。
筆者も6年分の奨学金の返済は結構大変でした。
とはいえ、奨学金の場合は、保険料の「未払い」と違って事実上の「借金」です。支払いの延滞が2ヶ月でも続くと延滞金も発生しますし、まずこちらを優先して支払いしないといけません。
大きな支払いを控えている
「追納」した分が年金として返ってくるのは30年以上も先のこと。
それまでの期間に借金を抱えてしまうようなことがあるなら、今を優先させた方が良いという考え方もあります。
例えば、車の購入費用、結婚費用、子供の教育費、マイホームの資金などといったライフイベントに40〜80万円上乗せできると考えるとどうでしょうか。
全てをローンを組まず(借金せず)に支払うことができる方はほぼいないと思います。
住宅資金の頭金を積み増したり、住宅ローンの繰り上げ返済をすることができれば、支払う利息分を相当圧縮できます。
繰り上げ返済は時期が早いほど利息を減らす効果がありますし、そもそもの借入金を少なくすることの方が優先度は高いとも考えられます。
将来の市場動向次第
ちょっと視点を変えて、40万円を手元にとっておいて年利1%で30年運用(65歳で受け取り)した場合を考えてみます。
この場合、539,876円(利息分は139,876円)
- 40年後の75歳受け取りなら596,630円(利息分は196,630円)
- 50年後の85歳受け取りなら659,351円(利息分は259,351円)
年利1%の運用というのは民間の学資保険(期間は20年程度に限られますが)くらい。
利回りが3%なら30年後は970,905円(利息分は570,905円)になります。
- 40年後の75歳受け取りなら1304,815円(利息分は904,815円)
- 50年後の85歳受け取りなら1753,562円(利息分は1353,562円)
タンス貯金や銀行預金でお金を寝かせたままであれば、前半で解説したように年金として受け取った方がお得という結果になります。
しかし、実態として経済は成長しており、将来のお金の価値は変動するものです。正しく市場経済の中で運用すれば40万円損するということにはならないでしょうし、場合によっては年金にまわす方が損だったという結果にもなるということです。
「追納」しないで未払い分を対応する方法
それぞれのケースを踏まえ、
- 追納した方が良いと思うが、現状余裕が無い
- 追納しなくても良いとは思ったが正直不安
- 追納しなかったが、追納しておいた方が良かった
などいろいろな考え方や状況があると思います。
追納は10年までという期限があることが主な原因ですが、実は「追納」という手段以外にも未払い分を対応する方法があります。
60歳で退職、もしくは自営業の場合
国民年金に加入できるのは20歳以上60才未満なので、60歳以降は国民年金に加入することはできません。
しかし、日本年金機構には60歳から65歳の期間に加入できる任意加入制度があります。
20歳以上60歳未満までの保険料の納付月数が480月(40年)未満の方が対象で、猶予されて未払いだった分を60歳以降で支払うということが可能です。
60歳以降も働き続けて厚生年金に加入している場合
任意加入制度は、厚生年金に入っている場合は加入できません。
となると、60歳以降も会社勤めをする場合は任意加入制度利用できないわけですが、厚生年金の仕組みの中で経過的加算という仕組みがあります。
60歳以降に厚生年金に2年間加入して増える経過的加算額は、2年間任意加入して増える老齢基礎年金額とほぼ同じ。
老齢基礎年金は満額になりませんが、実質その分を経過的加算でカバーすることができます。
まとめ
今回は学生時代に猶予された保険料支払いの追納について整理してみました。
ざっくり試算では「追納しないと40万円ほど損してしまう」という結果となり、追納した方が良いというのが一般的な見解になります。
ただし、余裕があるなら追納しておくと良いが、なにがなんでもというわけではないというのが重要なポイント。
- 追納した方が良いと思うが、現状余裕が無い
- 追納しなくても良いとは思ったが正直不安
- 追納しなかったが、追納しておいた方が良かった
こんな方は60歳になった時点でリカバーする手段(任意加入制度や経過的加算)がありますので、今大事なお金を有効に使うというのが一番賢明なのではないかと思います。