恋人や結婚相手、マイホーム購入など、一生に一度しか巡り合わないかもしれないことを決断するのって、なかなか難しいものですよね。
特に、一度迷って踏ん切りがつかなかったことで、ますます踏み切るタイミングを逃してしまう。。。なんて状況はありがちではないでしょうか。
また、結婚やマイホーム購入といった一大イベントではなくとも、何かの買い物を見送った後に『やっぱりあのとき買っておけば良かった〜』という経験は優柔不断の方に限らずあるでしょう。
実はこれ「最適停止問題」と呼ばれていて、
数学や統計の分野では、後になるほど良い物件に巡り合う確率は低くなる
ことで知られています。
そして、最適停止問題においては最適な決断タイミングも理論的に決まっています。
最適停止問題は、結論としては「37」という数字になることから「37%ルール」ともいわれています。
ただ、この最適停止問題を知っておくと実生活で決断に迫られる時や優柔不断の方にとって役に立つのではないかと思います。
この記事ではそんな「最適停止問題」について、そして最適停止問題を実生活へ応用する方法について紹介します。
最適停止問題(37%ルール)とは?
では、最適停止問題とは一体何なんでしょうか?
一言で説明すると、
『どこで止めるか、そのタイミングを理論的に決定する』
というものです。…?
ちょっと分かりにくいので、よく使われる具体的な2つ事例で説明していきます。
最適停止問題の具体例1:物件選び
まずは物件探しに当てはめて最適停止問題を解説してみます。
マイホームや賃貸物件でも、たいていまず何軒か内見した上で、どの物件にするかを選びますね。
すると、ある物件は「ここは良い🙆♂️けど、あそこが気になる🙅♂️」、「他にもっといい物件があるのでは?」と考えてしまい、どの段階で物件を選ぶべきか判断が難しくなります。
このように、どこまで見てから選択(決断)すべきなのかが難しい問題に関して、最適な閾値を求める問題が最適停止問題になります。
そして、冒頭で説明しました通り、今回の物件探しのような類の問題は既に答えは明らかで、37%という数字が理論的に最適になります。
つまり、対象となる物件が100件あるならば、まず37件を内見します。そして、38件目以降にそれまでに見た物件より良い物件が見つかればその物件を購入することに決める、ということになります。
このような方法で選択すると、100件の物件の中で一番良いものを選択できる確率が一番高くなります。
ちなみに、一番良い物件を選択できる確率は37%になります。
これは対象物件の数によらず37という数字になります。なんか面白いですよね。
この求解には、n(物件の数)が十分に大きい時を仮定した近似が行われ、答えは1/e(e = 2.71828…)≒37となります。
なぜそのような数字になるのか?というと、言葉で説明した条件を計算式で表現し、その数式を解くことで得られます。実際の解法が気になる方は是非ご自身でググってみてください。
試しに、N(物件数) を100とし、一番良い物件を選べる確率をシミュレーションしてみたものが下のグラフです。
1〜99件目まで内見した場合のそれぞれの確率はN=37あたりが最も高く、およそ37%であることがわかります。
上記のシミュレーションでは「1番良い物件を選択できる確率」を算出する際、各内見数あたり10万回の施行をしています。それでも結果にはばらつきがあり、理論値の36.8…からは多少ずれることが確認できます。
そこで、各内見数あたり100回の施行で算出してみたのが下のグラフです。
傾向としては同様ですが、かなりガタガタになってしまい理論値とは大きく外れた結果になることもあります。
37という数字は理論的には正しくても、あくまで「確率」であることは念頭に置いておきましょう。
最適停止問題の具体例2:秘書問題
最適停止問題の例題としてよく紹介されているものが『秘書問題』というものです。
『結婚問題』と紹介されていることもありますが、要は、秘書や結婚相手、恋人など、なるべく自分の理想の1人を選びたい場合にどうしたら良いか?という問題です。
先ほどの物件選びの時と同じで選択する対象が『人』になっただけですが、こちらの例では「最適停止問題が成立する前提条件」について着目してみます。
最適停止問題の前提条件とは
秘書問題が最適停止問題として成立するにはいくつかの前提条件があります。
- 応募してきている人数は既知である
- 応募者の良し悪しをつけ判断できる指標があり、応募者の順位をつけることができる
- 無作為な順序で1人ずつ面接を行う。次に誰を面接するかは常に同じ確率である
- 毎回の面接後、その応募者を採用するか否かを即座に決定する
- その応募者を採用するか否かは、それまで面接した応募者の順位にのみ基づいて決定する
- 不採用にした応募者を後から採用することはできない
これは物件選びの場合も同様。(”応募者”を”物件”に置き換えてみてください。)
これらの条件の下なら、100人の応募者から選ぶ場合は『37人まで見て、38人目以降から良い応募者(見てきた37人より良い応募者)がいれば採用するのがベストな選択』ということになります。
このような理屈を知っていると、厳密に最適なタイミングまでは判断できなくても、判断を遅らせるほど良くないという気づきにはなりますよね。
最適停止問題を勉強するには
今回は最適停止問題の概要を紹介していますが、もし興味がありましたら、『アルゴリズム思考術 問題解決の最強ツール (早川書房)』という書籍を読んでみることをおすすめします。
最適停止問題の応用:実生活で迷わず決断する方法とは?
最適停止問題がどういうものか紹介しましたが、実際の物件探しや、ましてや結婚相手を決めるのにこのやり方をそのまま当てはめることは到底できません。
なぜなら、現実世界では、先ほど紹介した『最適停止問題の前提条件』が成立しないからです。
物件選びであれば、それぞれの物件の良し悪しを同じ土俵で比べる明確な指標なんて決まっていないでしょうし、そもそも対象となる物件数も決まっていないですよね?
しかし、逆に考えてみれば、
- 同一の土俵で良し悪しを比較できる基準を持っていること
- 対象数は検討期間中にみて回れるだけの数に絞り込めること
この2つのポイントを押さえられているのであれば、最適停止問題(対象の37%を見た後に選ぶ)として当てはめて考えやすくなるということです。
物件サイトなどで条件を絞り込めばできなくもないですが、そもそもそこで絞り込みに使った条件は参考程度のもので後々も変わらずにいることはないです。
人は誰でも先入観やバイアスを持っていますし、百聞は一見にしかず。物件を内見したり、相手とお付き合いすることで価値観が変わるものです。
ではどうしたら良いのかを紹介していきます。
以降は最適停止理論を参考にしつつも、必ずしも理論通りというものではないことをご了承ください。
STEP1.良し悪しを判断できる基準を持つ
一番重要なのは、この基準をどのように自分の中に構築するかです。明確な基準があればそもそも迷わないのかもしれませんね。
ではどうやって基準を持つのか?それには対象をいろんな視点で見てみるというのが大事です。具体的には【3つの目とは?】物事の見方を変えるのに役立つ3つの視点3選!という記事でも紹介していますが、多角的な視点や広い視野で捉えてみましょう。
狭い視野でAか?Bか?と迷っていても決め手に欠けますが、もっと大きな視点で譲れないポイントが明確ならば迷う余地がありません。
物件選びであれば、物件を選ぶ基準をなるべく大きな3つに分類し、その中から自分の関心や理想がどこに向かっているかを確認しながら選んでいきます。
ここからは筆者自身がマイホームを選んでいった過程を具体例として紹介しながら進めてみます。
まず、一戸建か、分譲マンションか、それ以外(賃貸、中古物件)から分譲マンションを選びました。
次は、マンションの中で、抑えたいポイント(分譲戸数、エリア、施工主、建築業者、間取り、価格、・・・)などがなるべく異なる物件を3つ内見して、自分や家族が何を理想とするか選びます。
我が家のケースでは、この段階で戸数や設備、間取りなんかと支払いできる価格の相場が見えてきました。
また、何よりも日常の買い物や通院のアクセスの良さや災害時のリスクなどに重点を置く方が良いと思い至り、エリアを決定。
このようになるべく大きく3つの観点を考えてみることで自分の中の判断基準が形成しやすくなります。
STEP2.検討期間や検討範囲を決める
判断基準さえ明確になっていれば、条件に合う物件も絞れてきます。
あとは検討期限を決めるだけです。
我が家のケースでは、子供が幼稚園に通っている間の3年間を検討期間としました。
これで、最適停止問題の条件が整います。
- 同一の土俵で良し悪しを比較できる基準を持っていること
- 対象数は検討期間中にみて回れるだけの数に絞り込めること
STEP3.なるべく早く決断する
そして、一度基準ができてしまえば判断は早いものです。37%という数字に踊らされる必要はありませんが、基準をクリアしているのであれば先送りすることなく決断してしまいましょう!
我が家の場合、2件目に内見した物件を購入しましたが、築5年を経過した今でもこの地域では一番良い立地の物件を手にいれることができました。
まとめ
この記事では「物件選び」や「秘書問題」を例に、最適停止問題について解説しました。
また、最適停止問題を応用しつつ、実生活で最適な判断をする方法を合わせて紹介しました。
現実問題としては、37%という数字にこだわる必要はありません。
それよりも重要なのは「前提条件」。
言い換えると、
前提条件となる判断基準さえしっかり明確になっていれば、見送らず早めに手をうっておく方が最適な選択ができそうだ!ということです。
もし、前提となる判断基準が明確ではないのであれば、まずは「自身の価値基準」を整えていくことが先決でしょう。
選択に迷ってしまう方の参考になればと思います。