インフレが進んで不動産価格も年々上昇する昨今、マイホームを持っている方は「もしかして売却するなら今が売り時なのでは?」と思うこと、ありますよね。
多くの方は「面倒そうな手続きには諸費用もかかるし、利益が出ても税金とか大変なのでは?」と思って結局何もせずに過ごしてしまっているのではないでしょうか。
確かに諸費用はかかり、手続きも面倒ではあるものの、
税金に関してはいくつも優遇措置として特例が用意されています。
その特例の例としては以下の3つがあります。
- 3000万円の特別控除(居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例)
- 10年超所有軽減税率の特例
- 特定居住用財産の買換え特例
マイホームを売却する際の税制優遇措置は非常に強力で、非課税(税金は発生しない)で済むケースは多いでしょう。
この記事で不動産売却時の税制について、筆者の実経験を交えつつ、ファイナンシャルプランナー2級技能士として解説します。
結局、売った後どこに住むのか?という問題は大きいものの、
まとまった資金(ローンを含めマイホーム取得にかかった費用)を一度に手にすることが出来るので、これからの人生の選択肢は広がるものでしょう。
また、税金関係はそもそもややこしい上に、網羅的に記載されるべき内容であることから、かえって自分にとって必要な情報が何なのか非常にわかりにくいという問題があります。
そこで、この記事では、単に網羅的に情報を記載するのでは無く、どこから判断していくかという手順や考え方をメインに解説します。
マイホーム売却時の税金の特例とは
まず「マイホーム(居住用財産)を売却して売却益(儲け)が出そうだ」ということを一旦出発点にします。
その際の税制優遇措置として3つあるわけですが、
- 3000万円の特別控除(居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例)
- 10年超所有軽減税率の特例
- 特定居住用財産の買換え特例
マイホーム売却後、賃貸に切り替える場合は❶(および❷)を適用することになりますが、マイホームを買い替えする場合も、❶(および❷)と❸のどちらが好ましいかはケースバイケースになります。
また、儲けではなく、損してしまうというケースは適用できる特例がそれぞれ以下の❹や❺に変わります。
- 譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
- 買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
いずれにせよ、
❶および❷について内容を理解しておくことが基本となって、状況により選択肢が変わっていくのがポイントです。
そこで、この記事では主に❶と❷について解説していきます。
3000万円の特別控除とは
正式には「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」といって、詳細は国税庁のサイトに記載されています。
要は「売却益の3000万円分には税金がかからなくて済む場合がある」ということです。
モデルケース
当時3500万円の物件を購入していて、4500万円で売却できたケースで考えてみます。(←筆者のケース)
この場合、売却益(譲渡所得)は1000万円(4500万円ー3500万円)ですが、この売却益が3000万円までは非課税になります。(3500万円は取得するのにかかった費用ですから、そもそも税金の対象になりません。)
売却にかかる不動産会社への仲介手数料もかかりますので、丸々とはいきませんが、
ローンが残っていればその返済に充てる必要もありますが、いずれにしても人生の選択肢は増えるのではないでしょうか。
特例の適用を受けるための要件
この特例の適用を受けるためには以下の要件を満たす必要があります。
- 自分が住んでいる家を売ること。(売るときの時点や現在すでに住んでいない場合は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること)
- 売った年の前年および前々年にこの特例の適用を受けていないこと。
- 売った年、その前年および前々年にマイホームの買換えやマイホームの交換の特例の適用を受けていないこと。
- 売った家や敷地等について、収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと。
- 災害によって滅失した家の場合は、その敷地を住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
- 売手と買手が、親子や夫婦など特別な関係でないこと。
いろいろと項目がありますが、
最も一般的なケース(現在お住まいの家を不動産会社を通じて譲渡する)ならこの特例を適用できる要件を満たしている可能性は高いと考えられます。
ただし、「この特例の適用を受けることだけを目的として入居したと認められる家屋」は適用を認められないなどの適用除外要件もありますので注意が必要です。詳細は国税庁のサイト(マイホームを売ったときの特例)を確認ください。
10年超所有軽減税率の特例とは
売却益(譲渡所得)が3000万円を超えてしまうとどうなるか?というと、超えた分に対して譲渡所得税率をかけた金額を納税することになります。
この譲渡所得税率を低減できるのが「10年超所有軽減税率の特例」です。
もしマイホームの所有期間が10年以上の場合、3000万円の特別控除に加えて「10年超所有軽減税率の特例」を適用することでこの譲渡所得税率は14.21%(所得税:10.21%、住民税:4%)になります。ただし、譲渡所得(3000万円の特別控除適用後)が6000万円を超えた分は20.315%の税率になります。
税率14%になると、どれほどお得?
特例の適用が無く、譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年以下の短期譲渡であった場合の税率は39.63%(所得税:30.63%、住民税:9%)、譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年を超える長期譲渡の場合は20.315%(所得税:15.315%、住民税:5%)です。
つまり、10年超所有軽減税率の特例は、5年を超える長期譲渡よりさらに長期(超長期)要件として譲渡所得6000万円分については5%減税されるということです。
マイホームの売却益の計算
特例(減税)の仕組みや効果がわかったら、実際に売却益(実際の儲け)を試算してみると良いでしょう。
売却する前の段階である程度、見積もっておくことができればその後の生活のシミュレーションもしやすいですね。
譲渡所得の計算は
譲渡所得=売却した額ー(取得費+売却にかかった譲渡費用)
です。
これまでと同様に、売却した額は4500万円、購入した当時の物件価格は3500万円として解説していきます。
取得費の算出方法
取得費は、売却する物件を購入した際の費用なので3500万円なのですが、多少増減があります。
もし、購入した費用がわからなかったり、購入金額を証明する書類(契約書など)が無いという場合は譲渡収入の金額×5%という試算方法もありますが、これは主に先祖代々受け継いだ土地を売る時などに適用するものです。
自身が購入した物件なら、取得費が売値の5%では割りに合わないので、書類は大事に保管しておきましょう。
また、取得費となるものは物件の購入代金以外にも、
- 建築費用
- 購入手数料(仲介手数料)
- 登記費用(登録免許税など)
- 不動産取得税
- 印紙税
などがあります。
これらを取得費として加算すれば譲渡所得を圧縮することができます。
減価償却費
一方、取得費から減額される要素として、減価償却費があります。
鉄筋コンクリート造の居住用マンションの場合、償却率は0.015です。
これは、1年経過するごとに元値の1.5%分が償却される、ということを意味しており、70年経過すると資産価値としては0になるということです。
といっても、マンションの場合であっても償却されるのは建物部分のみです。
減価償却費 = 建物購入価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
建物は2500万円、経過年数が9年だったとすると、
減価償却費は、2500 × 0.9 × 0.015 × 9 = 303.75万円
売却にかかった譲渡費用
不動産の仲介手数料や登記費用などです。
売買価格が400万円以上であれば売買価格の3.3%+6.6万円が仲介手数料は上限として定められています。
4500万円で売れたとすると、最大で155.1万円の仲介手数料がかかります。
以上より、譲渡所得を計算すると、
- 売却した額:4500万円
- 取得費:3196.25万円(3500万円ー303.75万円)
- 譲渡費用:155.1万円
譲渡所得 = 4500万円 ー(3196.25万円 + 155.1万円)= 1148.65万円
1148.65万円 < 3000万円 なので、1148.65万円分は所得控除され課税対象となる所得は0になります。
確定申告の方法
特例を適用することで課税を0円にするわけですから、確定申告は必須です。
ただ、上記の内容が揃っていれば、個人でも十分に対応可能でしょう。
申告時期
売却した翌年の2月16日から3月15日までの期間です。
税務署に行くか、オンラインでも申告できます。
登記事項証明書の取得
譲渡の特例の適用を受けるための申告書には、売却した物件の所有権を譲渡した証明が必要となるため登記事項証明書の添付が必要になります。(登記事項証明書は全国の法務局で取得できます。)
また、売却した物件の不動産番号等の申告によって登記事項証明書の添付省略が可能になる場合もあります。
ふるさと納税を忘れないこと!
確定申告をする場合、ワンストップ特例は使えません。
もし、前年中にふるさと納税ワンストップ特例の申請をしていても無効となります。
ワンストップ特例の申請をした分も含めて、確定申告の際に寄附金控除額を計算する必要があるので要注意です。
まとめ
この記事では、マイホームを売却した際の税金の計算方法や確定申告までの流れについて解説しました。
売却益(儲け)が3000万円までなら非課税となる特例の存在は大きいですよね。
実際には、売却する金額や取得費、ローン残高などの条件により税金がかかったり、損失が出てしまうというケースもあるかと思います。
とはいえ、想像していなかった全く新しいライフプランも見えてくるかもしれませんので、一度検討してみる価値アリではないでしょうか。