日本の所得税は「超過累進課税制」。
がんばって稼いでも税金として支払う割合が増えていく仕組みなので、年収1000万円であっても手取り額は700~800万円程度になってしまいます。
1000万円という年収に対して手取り額に差があるのは、控除(扶養家族の人数による「扶養控除」など)の額に違いがあるためです。
「親や祖父母を扶養に入れると税金が安くなるらしい」
と聞いたことがあるならば、それは「扶養控除」のことです。
年代も上がり収入も高くなった頃、老後を迎え収入が無くなった親を扶養に入れることができれば、扶養控除による恩恵を受けることができます。
また、親としても子供の社会保険に加入できれば、保険料の負担を少なくすることもできるかもしれません。
とはいえ、
親と自分のどちらにどのようなメリット・デメリットが発生するかを把握しておくことが超重要。
例えば、
「世帯を一緒にしたら親の国民健康保険料が上がってしまった」
「親の国民健康保険料の支払いを自分がしなくてはいけなくなった」
「親の高額療養費制度の自己負担限度額が高くなってしまった」
「親子で同居している場合でも、世帯を分離すると介護費用や高額療養費の負担を抑えられる」
・・・
なんて話もあります。
そこで、この記事では親や祖父母を扶養に入れるメリットや条件を解説した上で、多くの家庭で当てはまるケースを紹介したいと思います。
親を扶養に入れるメリットと条件
まず、親や祖父母を扶養に入れるといっても2つの方法があります。
- 税制上の扶養に入れる
- 社会保険上の扶養に入れる
「税制上の扶養」は課税に関連し、所得税や住民税の控除に影響します。
一方、「社会保険上の扶養」は社会保険料や保険の適用範囲に関連し、被保険者とその家族の社会保険に関する権利と責任を規定します。
どちらも家族のサポートや経済的な保護を目的としていますが、法的な枠組みと条件が異なり、それぞれの条件を満たしていれば両方の扶養に入れても良いし、いずれかだけの扶養に入れても大丈夫。
それぞれの主なメリットと条件を紹介します。
税制上の扶養(主に扶養する側のメリット)
税制上の扶養に入れる際のメリットは主に3つ。
- 扶養控除を利用して、所得税と住民税を減らすことができる
- 親の年齢によって控除額が異なり、高収入者ほど節税効果が大きくなる
- 同居が必須ではなく、別居していても適用可能
税制上の扶養の主な目的は、所得税と住民税を軽減するための控除を受けることです。扶養される家族の所得が一定額以下である場合、扶養者(通常、親など)がその家族の生計を支え、控除を受けることができます。
具体的な控除額は以下の表の通りです。(2023年時点)
区分 | 所得税 | 住民税 | |
---|---|---|---|
一般の控除対象扶養親族 | 38万円 | 33万円 | |
老人扶養親族 (70歳以上) | 同居老親等以外の者 | 48万円 | 38万円 |
同居老親等 | 58万円 | 45万円 |
「70歳以上」の親と「同居」している場合なら、58万円×所得税率(5%〜45%)=2.9万円〜26.1万円が所得税の節税になるといった具合です。
税制上の扶養の加入条件
条件 | 税法 |
---|---|
生活 | 生計を一にしている親族 |
年齢 | 上限なし |
収入の範囲 | 所得(※非課税のものは含まない) |
年収 | 親の所得金額が48万円以下 年金収入の場合、 65歳未満:108万円以下 65歳以上:158万円以下 |
まず「生計を一にする親族で、所得金額が一定以下の者」が条件になり、年齢の上限はありません。
収入面の条件は、所得ベースで判定します。親が年金を受給しているときには、公的年金等控除を差し引いた金額になります。年金収入のみなら65歳未満で108万円以下、65歳以上で158万円以下であることが条件です。
「年齢上限がない」「非課税の所得は含まない」のが社会保険上の扶養の条件との大きく異なるポイントになります。
また、親が青色申告者の専従者として1年を通じて一度も給与の支払いを受けていないことや白色申告者の事業専従者でないことも条件になります。
先に述べている通り、戸籍上の親族であることが必要なものの、必ずしも同居が要件になっていません。
社会保険上の扶養(主に扶養される側のメリット)
- 子ども等が加入する健康保険の扶養に入ることで、国民健康保険料の支払いを免除される
- 家族の人数が増えても保険料が上昇しない
社会保険上の扶養の主な目的は、被保険者の家族を社会保険の適用対象として登録し、健康保険料や厚生年金保険料を支払う際に適用率を決定することです。被保険者の家族が社会保険に加入していることで、健康保険や厚生年金の給付対象として様々なサービスを受けることができます。
健康保険上の扶養の加入条件と方法
条件 | 健康保険 |
---|---|
生活 | 主として被保険者により生計を維持されている者 |
年齢 | 75歳未満 |
収入の範囲 | 収入(※収入は課税・非課税を問わない) |
年収 | 60歳未満:130万円未満 60歳以上:180万円未満 同居:子の収入全額の半分未満であること 別居:子からの仕送り金額より少ないこと |
健康保険上の扶養は、「主として被保険者により生計を維持している者」となっていますが、職場の健康保険組合よって条件が異なる場合もあるので、事前に確認しておきましょう。
また、年齢が75歳未満である必要があります。これは75歳からは後期高齢者医療制度に移行するためです。
収入に関しては、所得ではなく収入ベースで判断します。ここでの収入は課税・非課税を問わず収入として計算されますので、傷病手当金や失業給付なども収入になります。
親を扶養に入れるべきかどうかの判断と方法
「税制上の扶養」と「社会保険上の扶養」の2つのメリットや条件を紹介しましたが、
「で、結局どうしたら良いのかよくわからんけど。。」
というのが率直なご意見だと思います。
実際、各ご家庭の状況はケースバイケースになりますので、ご自身で検証しながら、専門家のアドバイスを受ける必要もあるでしょう。
ただ、おそらく現代の多くの日本人に当てはまる可能性があり、効果がわかりやすいケースとして、「父親(または祖父)が他界してしまった」という場合(現役だった頃は会社勤めで定年退職後は年金暮らし)があります。
筆者の家庭もこのパターンに該当
想定事例として参考にしつつ、ご自身の状況やタイミングなどを検討するきっかけになればと思います。
高齢の母親(祖母)を扶養に入れるケース
親や祖父母の昭和世代の初婚年齢は男性の方が平均して4歳ほど高齢。かつ男性の方が寿命が数年短いため、母親や祖母が寡婦(夫と離婚または死別した後再婚せず、独身でいる女性)となるのはよくあることでしょう。
筆者自身もそうですが、身近な知人も母親や祖母が1人で暮らしているというのはよく聞くのではないでしょうか。
また、父親や祖父は会社勤め、母親や祖母は専業主婦(パート勤め)で生計を立てていたとします。
この場合、父(または祖父)が他界してしまい母(祖母)1人となった場合の収入は
収入=国民年金 + 厚生遺族年金
国民年金は、成人してから結婚して専業主婦になるまでの限られた期間に相当する額なので、年金の公的年金等控除を差し引くと、所得としてはかなり小さくなります(所得としては0円ということもあります)。
また、厚生遺族年金は非課税の収入。税法上の扶養の所得条件は、非課税のものは含みません。
となると、税法上の扶養に入れる条件が整う可能性は十分にあります。
一方、健康保険上の扶養の場合は、収入は課税・非課税を問わないとされているので、収入の条件で扶養には入れられないことも考えられます。
ただ、所得が低ければ、国民年金保険料の支払いも免除されたり、介護保険料や高額医療費の自己負担限度額が低く抑えられるので、健康保険上の扶養に入れることによるメリットよりもデメリットの方が大きくなる可能性があります。
今回のケースでは、税制上の扶養に入れる条件を満たしやすく、扶養する側の税控除を増やすことができるため、積極的に検討する余地がありそうです。
一方、社会保険上の扶養は75歳までの期限付き、かつデメリットも生じる可能性があるため、やるなら慎重に検証する必要があります。
同居する場合は、世帯分離をする
所得が少ない親や祖父母を扶養に入れるという今回のケースで、同居を前提とする場合は、世帯を分離しておくことを検討しましょう。
同一の世帯というのは、親も含めて一つの住民票になっている状態です。分離すると、同居して住所は一緒でもそれぞれの住民票で管理されます。
国民健康保険料は加入者の所得に応じて負担額が決まる所得割額と、加入者一人ひとりが均等に負担する均等割額があります。
所得が少なければ「所得割額」の負担は小さくなりますが、「均等割額」にも減免措置があります。ただし、均等割額については擬制世帯主の所得が考慮されてしまいます。
まとめ
親を扶養に入れる際の条件や手続きは、税制上の扶養と社会保険上の扶養の2つが存在し、それぞれ異なる条件が適用されることを解説しました。
詳細な条件や手続きについては、個別のケースに合わせて専門家のアドバイスを受けることが重要です。
ただ、母(祖母)が寡婦(夫と離婚または死別した後再婚せず、独身でいる女性)となることは、よくあるケースでありメリットも得やすいため、検討するきっかけになるのではないかと思います。
親子で同居するかどうかや、世帯を分離するかによっても、税金や保険料に影響があるため、慎重に検討することようにしましょう。